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PE向けニュースレター Vol.9

経営者リテンション

弊社がご支援するM&A関連サービスの中で、よくお問い合わせをいただく経営者リテンションの領域について解説します。
Technology and financial advisory services. Business teamwork and working on digital laptop computer with advisor showing plan of investment to clients at table office.

経営者リテンション

弊社がご支援するM&A関連サービスの中で、よくお問い合わせをいただくのが経営者リテンションの領域である。欧米においては、M&Aを行う際の経営者リテンションは必要不可欠なものとして認識されており、当該企業を買うかどうかの最終判断にも大きく関わる重要事項として、デューデリジェンスと同じタイミングで実施されてきた。一昔前では、日本企業がクロスボーダーM&Aを行う際、デューデリジェンスは当然実施するものの、経営者リテンションは行わない、あるいは経営者リテンションという言葉自体が認知されておらず、そもそもM&A時の検討の俎上に上らないということもあった。
最近では日本においても、経営者リテンションという言葉も広く認知され、関連するお問い合わせも一段と増えていることを実感する。またクロスボーダーM&Aだけではなく、日本国内のIN-IN案件においても、経営者リテンションの課題検討・施策立案を実施したいというケースも増えてきている。

これまで日本国内において、経営者リテンションの検討が必要とされてこなかった背景として、以下のことが考えられる。

 
  • プロパーが内部昇進でトップに就任し、社長を務め上げるプラクティスが一般的で、株主が変わっても続投する前提であり、リテンションイシューが発生しないこと
  • メンバーシップ型雇用の中で、経営者は自社グループ以外でのタフアサインメント等を経験する機会に恵まれないことも背景に、経営者自身が自社の経営のプロであると認識していること
  • プロ経営者マーケットが成立していなかったこと(外部マーケットの流動性が低い)
  • M&Aというような有事には、経営トップから一般社員まで一丸となって、変化に対応しようというメンバーシップ的な風土が強かったこと

このような点を背景として、M&A時でも経営トップ・経営幹部の続投が当たり前であり、経営者リテンションの必要性が低かったと考えられる。このような日本国内の慣行が徐々に変わってきて、現在では日本国内においても経営者リテンションの必要性が高まっている。
なおプロ経営者マーケットが確立されてきた一因として、今やグローバル企業では珍しくなくなった外国人トップを招聘することが、日本国内で定着したことも大いに関係しているであろう。メンバーシップ型雇用を前提とし、経営者マーケットが日本国内で閉じているという時代では、もはやないのである。

読者の皆様の中には、M&Aにおける経営者リテンションの必要性について十分ご理解されている方もおられると思うが、経営者リテンションの通常の流れは下図の通りとなる。


買おうとしている対象企業の企業価値の源泉はどこにあるかを考えると、そこで働くヒトは重要な要素であり、一般従業員のリテンションが重要視される場合もあるが、通常、最も重要なのは、経営の舵取りを行う経営トップであり、経営トップを支える経営幹部である。企業価値が大きく棄損している企業を再建するためのM&Aを行う場合であれば、前任経営トップに経営責任を取らせ、外部人材を新たな経営トップとして交代させるという場合もあり得る。そのような場合を除いて、買収検討候補に挙がるまで魅力的な企業として、企業価値を高めてきた経営者のリテンションは、M&Aの成否にも直結する。

それだけ有能な経営者に対しては、M&Aが対外発表された時点で、競合他社から引き抜きのアプローチも当然起こる。また対象企業の経営幹部に、長期インセンティブ(LTI)として株式報酬が付与されている場合には、M&Aのクロージングに伴い株式が清算され、多額のキャッシュが当人に入る。特に欧米においては、その金額は数億円、数十億円に上ることも珍しくなく、リテンション策を何も講じなければ、そのまま競合他社に引き抜かれる、あるいは離職して引退するといったことが起こりやすい状況となる。

そのような状況に陥らないように、経営幹部の現行報酬は市場水準と比べて高いのか、妥当なのか、安いのかを報酬ベンチマークを実施して把握し、リテンション策を講じていくことが必要になる。欧米では、経営幹部にLTIが付与されていることが一般的である。日本でも同様に、売上高が一兆円を超える大企業においては、経営幹部にLTIを付与することが一般的になってきている。LTIを買収後にどのように代替していくのかという点は、リテンションにおいて非常に重要となる。下図は、非上場企業を買収する際のLTI代替案の類型である。親会社の株式を付与する場合を除いて、キャッシュベースとなるが、株式の性質に類似するもの(ファントムシェア、ファントムオプションといった疑似株)とそうでないものに二分される。

後者の場合には、中長期の業績目標達成度に応じて、3年程度で権利確定するキャッシュLTIが一般的である。また稀ではあるが、例えば業績評価期間を3年とし、4年目に権利確定するといったように、支給タイミングを後ろ倒しにして繰延報酬とする場合もある。前述の通り、売り手に既存のLTIが存在しており、クロージング時点で一括清算される制度となっている場合、交渉によって一括清算を回避し、支給タイミングを後ろ倒しにするのも繰延報酬である。ただし、これは売り手の既存の制度の支給タイミングを遅らせているにすぎないため、買い手として、代替となるLTIを別途設計する必要がある。

このような繰延報酬は、既存のLTIのクロージング時点での清算金額があまりにも多額である場合に、離職リスクを軽減するために効果的である。ただし、これは買い手が勝手に変えることができるものではないため、経営幹部との交渉・合意が必要となる。経営幹部としては、何も見返りがなくこのような交渉に応じる動機はないため、一定期間継続勤務すれば、別の見返りがもらえるといったような設計が必要であり、弊社でご支援をしている。

以上、経営者リテンションは、買収対象となるまで、企業価値を高めてきた経営幹部は有能であるはずである、という前提の下で行うわけであるが、経営幹部は本当に有能なのか、どういった強みや課題があるのかといった人物評は当然必要である。

これは、買収対象事業をよく理解しているクライアントがビジネス観点で行うのも理にかなっているが、弊社でもアセスメントのご支援を行っている。

通常、デューデリジェンスの局面においては、買い手から経営者のアセスメントをしたいという申し出をするのは難しい。もしそのような申し出をすれば、買い手は当人の能力を疑問視しているのかといった不信感につながり、身構えてしまうであろう。したがって、アセスメントはクロージング後のPMIで行う方が現実的である。

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