By Larry Liu ,
Communications, Media, and Technology (CMT) Industry Leader, Marsh Asia
03/26/2024
アジアのハイテク産業は今、複雑かつ予測困難なリスク環境の変化に直面しています。地政学的な緊張が長引く中、ハイテク業界のサプライチェーンは依然として脆弱な状態が続いており、企業のレジリエンスや事業継続計画のあり方が問われています。これに追い打ちをかけるように、異常気象や気候変動、持続的な成長への懸念、人工知能(AI)の活用や自動化の風潮もハイテク産業が直面している逆風に拍車をかけています。
厳しい状況が続く中、アジアのハイテク産業の多くは、着実な事業成長に向けて積極的な施策を既に講じていますが、サプライチェーンの多角化や新市場での事業拡大を目指す中で、企業を取り巻くリスクも飛躍的に増大しています。企業が直面する重大なリスクにはどのようなものがあるでしょうか。また、その影響や検討すべき優先事項、リスクの軽減とレジリエンスの維持に向けて、企業はどのような施策に取り組むべきでしょうか。
世界的な地政学上の緊張がアジアのハイテク産業に甚大な影響を及ぼしています。 グローバルリスク報告書2024年版によれば、企業を取り巻く地政学上の影響は主に、ロシアとウクライナの戦争、イスラエルとガザの紛争、台湾を巡る緊張の3つが起因する可能性が高いとされています。3つの衝突のうち、1つでも事態が悪化すれば、世界的なサプライチェーンや金融市場、安全保障を巡るパワーバランス、政治的な安定性が著しく損なわれることになるでしょう。
紅海で最近勃発した事案も、貿易の流れやサプライチェーンに深刻な悪影響を与えています。輸送が少なくとも2週間遅延しただけでなく、輸送コストや保険料も上昇しています。 たとえば、7~14日間の単一航海を付保する船舶戦争保険の除外水域航行割増料率も上昇しています。また、貨物保険市場では、紅海を運航する船舶を対象に、従前は課されなかった保険料が追加で要求されています。輸送の遅延もハイテク産業の生産や市場投入の時間に悪影響を及ぼしており、結果、財務やキャッシュフローにも影響が出ています。
さらに、地政学上の緊張に伴う規制環境の変化も事業の継続性に深刻なリスクを及ぼしています。そのため、ハイテク産業は、グローバル規模で生産拠点の配置転換やサプライチェーンの多角化を検討せざるを得ない状況に直面しています。たとえば、日本などの国々は中国産の電子部品/機器への依存度を下げており、その中国に替わる生産拠点としてインドやベトナム、タイなどが注目されています。
とはいえ、サプライチェーンの多角化や再配置には、往々にして多大な費用負担やリスクを伴います。そこで挙げられるのが、以下の潜在的な課題や検討事項です。
財物損害/事業中断(PDBI)保険 やポリティカルリスク保険などの保険付保から、損失発生前の事業中断(BI)のリスク評価やサプライヤーリスクマッピングなどのリスク軽減対策に至るまで、多種多様な検討が必要です。マーシュは、それぞれのハイテク企業のニーズに合わせて、高い費用対効果でこれらのソリューションを整合するサポートをしています。
異常気象が起きれば、ハイテク産業は、原材料の調達から生産、配送に至るまで、サプライチェーン全体で深刻な事業中断に直面するおそれがあります。デロイトグローバルレポートによれば、2022年に中国で起きた猛暑や厳しい干ばつによって、複数の電子部品メーカーが工場の閉鎖に追い込まれました。1 干ばつが水不足を引き起こし、生産ラインに欠かせない水資源の入手が困難になり、その費用も高騰しました。
洪水や台風などの異常気象や気候変動は財産やインフラに損害を及ぼすだけでなく、生産や操業に不可欠なユーティリティの安定供給も妨げます。このような異常気象や気候変動によって、ハイテク産業は、そのバリューチェーン内の企業とともに、物的リスクにさらされ続けています。
また、アジア地域における気候変動に関する規制環境の変化や複雑化が進む中、エネルギーや水などの資源の消費も増加し、同時に代替エネルギーや再生可能エネルギーの利用にも制限がかかれば、ハイテク産業にとってサステナビリティ目標の報告と達成にさらなる圧力となるでしょう。
マーシュは、各業界に精通したリスクスペシャリストが持つ専門性と、気候変動やサステナビリティ分野での豊富な支援実績により、お客様をサポートしています。以下はその一例です。
アジアのハイテク産業も人材リスクや労働(力)問題の対処を余儀なくされています。たとえば、中国の教育部(行政機関)は、2025年までに製造分野の労働者が3,000万人近く不足すると予想しています。2
ハイテク産業が人材不足に対処する現実的な施策は、生産性の向上です。マーサーの2024年版グローバル人材動向調査 によれば、経営幹部は、AIや自動化を取り入れた働き方が最もビジネスの成長をもたらすと考えており、経営幹部の過半(54%)は、AIを大規模に導入しなければ2030年以降に自社が存続できないと見ています。
また、同レポートによれば、経営幹部は、従業員の研修やリスキリング、身体面、精神面のウェルビーイング施策、プロセスの最適化、ワークフロー管理が生産性を大幅に高めると考えています。
ハイテク産業業界で前述の取り組みを実現するには、マーサーなどのコンサルティング企業との連携が効果的です。以下を例として、各種業務を支援しています。
ハイテク産業は、自社製品をグローバル規模で販売・提供することで事業を拡大させています。一部には、自社のビジネスモデルをコアICT(情報通信技術)製品から複雑性の高い電子機器などの用途(自動車や航空機など)へ転換している企業も存在します。グローバル化や複雑性の高い製品への多角化を進めれば、製品回収(リコール)や賠償責任、過失・怠慢(E&O)、製品保証など、製品リスクも増大するでしょう。
また、委託製造請負企業は通常、顧客から製造物賠償責任保険、リコール保険、E&O保険(エラーズ・アンド・オミッション保険)の加入を求められます。なお、これらの各種保険はリスク転稼だけでなく、ビジネスを前進させる役割も果たします。効果的かつ財務的に持続可能な事業拡大を実現するには、十分な補償金額および条件が確保された保険を手配することが不可欠です。
どこの国であっても、製品リスクや賠償責任保険の手配は容易ではなく、保険会社の厳しい審査を通過する必要があります。マーシュは原材料の入庫から完成品の生産まで、品質保証手順を細かく提示することで、保険会社への提供データの質を向上させてきました。
[1] Deloitte Global (2023). 2023 semiconductor industry outlook. https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/us/Documents/technology-media-telecommunications/us-tmt-semiconductor-industry-outlook.pdf
[2] National Association of Manufacturers. (2024). 2024 First Quarter Manufacturers’ Outlook Survey. https://nam.org/2024-first-quarter-manufacturers-outlook-survey/
[3] Snaplogic. (2024). The AI Skills Gap. https://www.snaplogic.com/resources/infographics/ai-skills-gap-research