By Ichiro Seino ,
Marsh Japan
05/06/2024 · 6分で読める記事
アジアの自動車産業がイノベーションとテクノロジーで他社との競争に打ち勝つ中、製品リコールと賠償責任リスクはかつてないほど高まっています。最近、中国の規制当局はある自動車メーカーに対し、ブレーキの欠陥を理由に110万台の大規模リコールを命じました。1
一方、適切な製品リコール、賠償責任保険の支払限度額および/または補償内容の確保は、自動車会社にとってさらなる課題となっています。自動車メーカー(OEM)や部品供給業者にとって、加入可能な製品リコール保険の支払い限度額(ほとんどの場合、最高1億米ドル)と、一般的に支払い限度額の10倍以上となる実際のリコール費用の間にはかなりの開きがあります。
部品メーカーは通常、自動車メーカーとの契約において製品リコール責任の大部分を負うため、より一層のストレスに直面します。例えば、韓国の電池メーカーは8億9,000万米ドルのリコール費用の70%を負担し、その年の営業利益を24%近く押し下げました。2
これら要因が相まって、リコール後の自動車メーカーのバランスシートに深刻な影響を与える可能性があります。日本では、ある企業の欠陥エアバッグが原因となり、全世界で約1億2,200万台に対し120億米ドルをかけてリコールし、倒産に至ったケースもあります。3 150億米ドルと見積もられる法的賠償責任(自動車メーカーへの賠償金8億5,000万米ドルを含む)が発生しました。4
自動車メーカーは、保険の適用範囲を超えた製品リコールという自らの存亡の危機にもつながるリスクにどのように対応しているのしょうか。以下3つのケーススタディでは、独自のデータと分析を駆使し、世界各地の業界とクレームに関する専門知識を有するリスクアドバイザー、保険ブローカーがいかに重要な役割を果たせるかを明らかにします。
リスク分析を通じた、リスク状況の定期的な更新により、「盲点」となりえる潜在的なリスクを発見することができます。また、自動車部品サプライヤーは、保険仲介のエキスパートにより国内市場とグローバル市場の両方を効果的にカバーする保険支払い限度額を調達することも可能です。
あるアジアの大手 EV バッテリーメーカーは、製品リコール保険がカバーしきれない可能性のある多額のクレームに見舞われたため、既存の補償を見直し、その信頼性を確保すべくマーシュに相談しました。
マーシュのリージョナル・カジュアルティ・チームはまず、既存の保険契約約款の詳細な分析を行い、クライアン トのリスクとの間のギャップや不備を浮き彫りにします。その分析に基づき、リスク状況を更新した上で保険会社と折衝、以前と同じ保険料と免責金額でより包括的な補償を得ることに成功しました。ここで得られた補償はまた、クライアントのリスクをグローバル全体でカバーし、自動車メーカー パートナーとのビジネス要件に準拠する上で必要十分な支払限度額でした。
さらに、マーシュはリコールワークショップを開催し、クライアントが製品の複雑さとその―リスクの理解を深める機会を設けました。一貫して、クライアントのリスクギャップや主要課題を特定、潜在的な損失に対する対応策を強化し、より包括的な保険を調達する上で重要な役割を果たしました。
データに基づいた取り組みと業界の専門知識が、自動車会社のリスク状況の改善に活用されれば、保険会社は良い条件での追加支払限度額の提供に対してより前向きになることでしょう。
自動車メーカーは、製品リコールや賠償責任に関する規制が異なる可能性のある、ローカル市場以外でもビジネスを成長させ、顧客基盤を確立したいと考えています。次のケーススタディでは、このような企業が自動車産業リスクマネジメントおよび世界各地で、シームレスに連携する保険仲介業者の専門知識によって、いかに自社の利益を守り、新たなビジネス機会をつかむのかを明らかにします。
北米と欧州に事業を拡大しようとしていたアジアの大手EV OEMは、これら地域における規制リスクと、適切なリスクマネジメントおよび保険アプローチについて確信が持てずにいました。
マーシュは、クライアントの賠償責任リスクを特定し、管理するための徹底したソリューションを提供します。はじめに、ワークショップの開催を通じて、クレーム、リスク状況の分析、各国の法的枠組み、補償オプション、グローバル保険プログラムの構造と機能、現行契約分析、契約上のリスクを削減する方法論および業界における慣行を網羅し、クライアントのリスク理解を支援しました。
その後、マーシュはベンチマークとリスク分析を実施し、クライアントの予想最大損害額、適切な保険支払い限度額と自己保有額を設定しました。リスク像と必要な補償、支払限度額が明確になったことで、マーシュはアジアとロンドン市場から大規模な支払い限度額を調達し、支払い限度額 1 億米ドルのグローバル賠償責任保険プログラムの組成・手配を支援しました。
このプロセスを通じて、自動車メーカー クライアントはマーシュチームとシームレスな国境を越えた調整により、最適化されたリスクコストでクライアントのニーズを満たす補償を手配します。その結果、全ての法域にわたり各国内でのサポートを提供するグローバル保険プログラムの組成に成功しました。
製品リコールが発生した場合、自動車部品サプライヤーは責任の所在の判断から生じる深刻な課題や論争に直面する可能性があります。3つ目のケーススタディでは、あるEV用バッテリーメーカーが、責任の所在を公正に判断すべく、マーシュに根本的な原因分析による綿密な調査を依頼した事例をご紹介します。
ある自動車メーカーにおける電気自動車(EV)の顧客がバッテリーの発火に見舞われ、政府規制当局は対象となるEVモデルの全面的な製リコールを命じます。その結果、欠陥の責任所在についての論争が生じました。
そこで、マーシュのクレームソリューションチームは専門家を派遣し、根本的な原因分析を行いました。これにより、熱暴走を引き起こし、バッテリー火災を引き起こした可能性のある、バッテリーの製造工程における潜在的な問題が立証され、マーシュチームは、この情報をもとに賠償責任がクライアントの課題であることを明らかにし、保険金支払い限度額全額または 3,500万米ドルを超える保険金支払いを求めました。
この事例では、専門知識を持つマーシュのクレームチームが、リコール責任の帰属と付随的かつ根本的な原因分析による保険契約支払い限度額を上回る損害額を立証し、 保険契約支払い限度額全額を受け取る権利があることを証明しています。
製品リコールに対する効果的なリスクマネジメント戦略は、インシデントが会社に与える財務上および風評上の悪影響を軽減するためにも極めて重要です。上記のケーススタディが示すように、潜在的な大規模な製品リコールと賠償責任損失から自動車関連事業を守るには、以下を網羅する独自のデータと分析力に裏打ちされたリスクアドバイザリーの専門知識が求められます。
1Engadget. (2023). Tesla recalls over 1.1 million cars in China over braking flaw
2Nikkei Asia. (6 March, 2021.) LG Chem agrees to cover most of Hyundai's $900m EV recall
3Eurofenix. (Winter 2016/2017). Takata: The unfortunate recall
4Reuters. (Jun 2017). Japanese airbag maker Takata files for bankruptcy, gets Chinese backing
Article
05/30/2023