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アジアにおける電気自動車（EV）充電インフラ：事業者が効果的にリスクを管理する方法

アジアにおいて、電気自動車(EV)充電インフラの運営者が直面する主なリスクと、それらを効果的に軽減する方法

By Ichiro Seino ,

Marsh Japan

07/19/2023 · 7分で読める記事

アジアでは、電気自動車（EV）の普及に伴い、EV充電インフラの整備が急速に進んでおり、アジア太平洋地域の充電ステーション市場は、2029年までに年率30.8％の成長で696億米ドルに達すると予想されています。充電スタンドの運営会社（CPO）にとって、国内市場や充電スタンドの設置場所は、それぞれ独自のリスクをはらんでいます。

一つのリスク事象が発生すれば、深刻な経済的損失や法的責任を負うことになるため、事業者は大きなリスクを抱えています。したがって、リスク要因を理解し、定量化し、適切なリスク管理方針を策定し、リスク要因を軽減・移転するための適切な措置を講じると同時に、政府の入札要件を満たし、プロジェクトのスケジュールを達成し、責任の限度を定めるといった目的を達成することが不可欠です。

EV充電ポイント事業者が抱える主なリスク課題

事業者にとって、電気自動車充電インフラにまつわる最も一般的な4種類のリスクは、物的損害（PD）、物理的・デジタル的事業中断（BI）、第三者賠償責任リスク、規制違反であると言われています。

物的損害 (PD: Property Damage)

物的資産の所有者および/または運営者として、盗難/破壊行為、車両からの偶発的な損害、火災、台風などの自然災害など、物的損害の潜在的原因を認識しておく必要があります。物的損害（PD）保険のプログラム構成は、新しい場所への拡張、充電ポイントの種類やデザイン、使用する部品に柔軟に対応できるものでなければなりません。

インフレ、為替変動、サプライチェーンの懸念がある中、保険プログラムが適切に構成されていることを確認する必要があります。特に、物的損害が発生した際に、補償不足による保険外損失を負担することがないよう、資産を正確に評価し、適切な金額で保険をかける必要があります。

物理的およびデジタル的な事業中断（BI：Business Interruption）

冗長化やバックアップを行っていても、洪水、サイバー攻撃、主要サプライヤーの倒産など、充電ポイントのインフラはBIの損失にさらされます。

例えば洪水です。たとえ充電ステーションに被害がなかったとしても、エンドユーザーが施設にアクセスできなくなったり、安全対策として充電ポイントを停止しなければならなくなったりすることで、BIの損失を被ることになります。したがって、BI保険金額を正しく設定し、充電ポイントのインフラ資産に対して適切なBIおよび構外利益補償を受けることが重要です。

第三者賠償責任リスク

製品に関連する不具合や責任に対して、適切に補償や保険をかけていますか？一つの方法は、充電ポイントの部品（充電ケーブルなど）の保証が、賠償責任に対する補償まで及ぶかを確認することです。もう一つの方法は、保険のプロフェッショナルと協力して、リスクをステークホルダーに移転できるようなプログラムを設計することです。例えば、エンドユーザー向けの、充電ポイントの使用に起因する車両の損傷を補償する延長保証プログラムなどです。

サプライヤー、主要なビジネスパートナー、エンドユーザー、一般消費者が関わる複雑な賠償責任リスクの管理について専門知識を持つ保険のプロフェッショナルとの提携をぜひご検討ください。

規制やその他のリスク

電気自動車充電インフラとビジネスモデルは、環境・社会・ガバナンス（ESG）原則に関する規制や監視の高まりに対して、将来的に耐えられるものでしょうか。企業のリスク管理戦略は、持続可能性を中心に据えるべきであり、主要なステークホルダーと積極的に関わることでESGリスクに対処する必要があります。

従業員に対しては、適切な保険に加入し、多様性、公平性、包括性（DEI）の原則に基づく方針を採用し、プロフェッショナルを通じて革新的でカスタマイズされた医療・福利厚生プログラム設計の導入を検討する必要があります。

各市場には、充電ポイント事業者に対するリスクの考慮事項、規制、制限がそれぞれ存在するため、リスクポートフォリオ分析を行い、リスクと潜在的な損失の特定と、正確な定量化が推奨されます。これを怠ると、リスクの「盲点」が生じ、経済的・風評的に大きな損失を被ることになり、事故が発生した場合に回復が困難になる可能性があります。

また、サイバー攻撃による顧客の個人情報の漏洩など、リスクが発生した際に、会社の評判を守り、さらなる損失を防ぐために、強固な危機管理・事業継続計画を策定しておくことも有効です。予防的な対策や管理はもちろんのこと、組織のすべてのリーダーや従業員は、適切なシナリオベースのトレーニングを受け、危機やリスク事象における自分の役割と責任を明確に理解する必要があります。

EV充電インフラの保険加入に影響する要因

本稿執筆時点では、アジアではPD/BIおよび第三者賠償責任補償のために事業者に拡張された十分な保険キャパシティが確保されています。香港などの市場では、事業者（不動産所有者など）が既存の保険プログラムを拡張してEV充電ポイントをカバーすることも可能になっています。

とはいえ、保険加入のしやすさ、価格設定、補償条件は、以下の要因によって異なる場合があります：

導入されている充電技術の種類

高電圧のEV充電ポイントは、より大きな公的責任リスク（例：電気ショックなど）をもたらす可能性があります。新しいコンポーネントや新しいサプライヤーからの部品は、特に部品のパッケージ化の場合、故障や欠陥のリスクが高くなる可能性があります。したがって、充電ポイントの運営者は、契約上の責任リスクを考慮し、それに応じたリスク軽減の必要があります。

リスク軽減のための対策

偶発的な物理的損傷を防ぐために充電器の周りに車止めのポールを設置する。高電圧火災を防ぐために安全監視システムを設置する。サイバー攻撃を防ぐためにサイバー対策に取り組む。充電器の設置場所を高台や犯罪の少ない地域にする。などは電気自動車充電インフラのリスク回避率を高め、事業者の保険加入率を高める可能性があるリスク軽減措置です。

サイバー攻撃の新たな標的

攻撃対象がますます大きくなるにつれ、EV充電ステーションは、ハッカーにとって新たなにサイバー攻撃の標的になっています。これは、EV自体をハッキングする場合にも言えることです。2022年に入ってから公に報告された100件以上の自動車サイバーセキュリティインシデントのうち、EV充電は「最も多く出現した攻撃対象」でした。

ドイツの19歳の若者がサードパーティーのアプリを使って十数カ国のテスラ車約25台にハッキングし、EV充電スタンドのインフラに潜在するサイバーセキュリティの脆弱性を明らかにしました。

世界各国の政府が二酸化炭素排出量の削減を推進する中、メーカー各社はますます多くのEVを生産しています。このため、政府は需要を支えるために、より大規模なEV充電インフラを構築する必要があり、こうした大規模な施設はサイバー犯罪者の焦点となります。一台の充電器であれば影響は少ないですが、充電器だらけの施設では、生活への影響ははるかに大きくなります。

このことは、セキュリティのベストプラクティスが重要であることをさらに示しています。インターネットに接続されている機器はすべてリスク評価の対象となり、定期的に侵入テストを実施し、脆弱性が存在するかどうかを診断する必要があります。また、企業がランサムウェア攻撃の被害に遭った際の費用を削減するためには、システムの定期的なパッチ適用が重要です。

リスクの集積に注意する

充電ポイント事業者は商業的にも契約的にも膨大なステークホルダー・ネットワークと提携するのが一般的であるため、リスクを移転する前に集積リスクを適切に評価・定量化しなければ、損失が増幅される可能性があります。

何よりもまず事業者は技術のパッケージ化や実装について、潜在的な企業間のリスクを評価し、これらのリスク管理のためにプロジェクトのライフサイクルの各段階において最適な行動を特定し、実行する必要があります。また、保険のスペシャリストを通じて、キャプティブ、特約に基づく保険、パラメトリック保険など、別のリスク移転プログラムを検討することもできます。

EV充電インフラをライフサイクル全体にわたって損失から効果的に守るためには、事業者は適切なリスクパラメータを使用し、賠償責任と保険の正確な限度額を決定する必要があります。グリーンフィールド・プロジェクトの物理的気候リスク・モデリングやサイバー・リスク評価、定期的なBIレビューや危機管理演習などのリスクマネジメント活動から得られるデータや分析は、リスクの集積を軽減し、必要とされる資金調達や保険への加入を可能にし、残存リスクに対処するための戦略に反映することができます。

EV充電ネットワークへの投資を保護する

EV充電インフラの運営は、リスク要因が複雑で相互に関連し合っているため、事業者にとっては困難な事業であり、事業者は「保険が過剰なのか、不足しているのか」、「未知のリスクを抱えずにEV充電ネットワークを拡大するにはどうすればよいか」、「リスクマネジメントと保険業務を最適化するにはどうすればよいか」などの重要な問いに応えなければいけません。

市場をリードするリスクアドバイザーや深い業界知識を持つ保険のプロフェッショナルとの連携により、適切な対策を講じることが可能になります。

マーシュは、戦略的な意思決定とビジネスの成長をサポートし、変化し続ける EV充電インフラのリスク課題の解決策をご提案いたします。

出典

Asia-Pacific $69.5 Bn Electric Vehicle Charging Stations (globenewswire.com).

EV Charging Stations Cyber Vulnerabilities Could Be EVs Achilles Heel. Upstream. (2023).

Third-Party Software for Teslas Can be Hacked, German Teen Says. Bloomberg.com (2022)