経済の不確実性と経済的発展の衰退
今後数年間は、経済の不確実性が続き、経済的・技術的格差が拡大するでしょう。経済的機会の欠如が今後2年間のトップ10リスクの第6位に入りました。長期的には、経済的流動性に対する障壁が設けられ、人口の大部分が経済的機会から締め出されてしまう可能性があります。紛争が起きやすい国や気候変動の影響を受けやすい国は、投資や技術、そしてそれらに関連する雇用創出の機会からますます遠ざかる可能性があります。安全で安定した生活への道筋がない場合、個人は犯罪に走り、より軍事化し過激になるかもしれません。
危機に瀕する惑星
環境リスクは、あらゆる時間軸において、引き続きリスクの大半を占めています。グローバルリスク・コンソーシアムの3分の2は、2024年の異常気象を懸念しています。異常気象、地球システムの危機的変化、生物多様性の喪失と生態系の崩壊、天然資源の不足、そして汚染は、今後10年間に直面すると思われる最も深刻なリスク上位10位のうち5つを占めています。しかしコンソーシアムでは、もたらされるリスクの緊急性については意見が分かれました。企業に属するメンバーは、ほとんどの環境リスクは市民社会や政府が考えるよりも長い時間軸の中で顕在化していくと回答しており、戻る事のできない地点を通り過ぎてしまうリスクが高まっていることを指摘しています。
リスクへの対応
本報告書は、グローバルリスクに対処するための行動を再考するよう指導者に呼びかけています。最も破壊的な新興リスクに対するガードレールを迅速に構築するためには国際協調を積極的に展開させることを推奨しています。例えば、紛争の意思決定におけるAIの統合に取り組む協定などが挙げられます。誤報や偽情報に関するデジタル・リテラシー・キャンペーンを通じて個人や国家のレジリエンスを強化することや、気候モデリングやエネルギー転換を加速させる可能性を秘めた技術に関する研究開発を促進することなども含まれます。
マーシュ・マクレナンのヨーロッパにおけるチーフ・コマーシャル・オフィサーである Carolina Klint は、 以下のように述べています。「AIの飛躍的な進歩は、組織のリスク見通しを根底から覆すものであり、多くの企業は誤情報、仲介者の排除、戦略的誤算から生じる脅威への対応に苦慮しています。同時に、企業は地政学や気候変動リスクの高まり、そして増加する脅威アクターからのサイバー威嚇に対応するために、より複合的なサプライチェーンを取り決めていかなければなりません。この急速に進化するリスク展望を乗り切るためには、組織、国、国際レベルでレジリエンスを構築するための絶え間ない努力と、官民の協力拡大が必要です」。
チューリッヒ・インシュアランス・グループのサステナビリティ・リスク部門責任者である John Scott 氏は、次のように述べています。「世界は、AI、気候変動、地政学的な変化、人口動態の変遷など、大きな構造転換期を迎えています。しかし、それらはチャンスでもあります。既知のリスクは激化し、新たなリスクも出現しています。国境を越えた集団的かつ協調的な行動もその一翼を担っていますが、グローバルリスクの影響を軽減するためには、地域に根ざした戦略が不可欠です。市民、企業、国それぞれの行動が、グローバルリスク削減の針を動かし、より明るく安全な世界の実現に貢献することができるのです」。